2012年6月26日火曜日

ネーミングの罠と、時代とともに変わる言葉のニュアンス


先日、とある地域イベントのテーマを決める会合に出席する機会を得ました。
八幡東区の「まつり起業祭」です。

もともとは八幡製鐵所主催のお祭り「起業祭」でしたが、現在では市民のお祭りとなっています。
人口7万人の八幡東区の中央町界隈に3日間で60万人を超える人が集まります。おとなりの八幡西区の人口26万人を考えても、ずいぶんと人が集まるお祭りであることはおわかりいただけると思います。

また、起業祭は世代を超えて八幡の人の共通の話題となっています。昔は起業祭の頃(昔は11月18日を挟んで3日間開催)には雪が降ったものだとか、コートを出す時期だったなど天候の話題から、11月18日は学校が休みだったとか、ただただ人の流れに従って歩くしかできない人の多さなど、八幡の人なら「そうそう!」と頷ける共通の体験なのです。

八幡人のDNAに刻み込まれているお祭の今年のテーマは、手続きを経て正式に決まると思いますので、内容は差し控えますが、その会合で思ったことを綴ります。

それはネーミングで陥りやすい罠です。
分不相応や希望的観測のネーミングが採用されがちで、もう見ていられないということです。

地域の活性化などで、ネーミングやテーマを決めることが日本各地で行われているのではないかと思います。
その多くは、話し合いの上決められますので、尖っているけど輝いている言葉や具体的なことを想起する言葉より、皆に関係のある無難な言葉が選ばれがちです。

「美味しさ発見!◯◯商店街!」は、金物屋さんや呉服屋さんの反対で採用されずに、
「元気発信!◯◯商店街!」となりがちなのです。

もう、地域おこしで「元気発信」禁止令を出したいくらい、典型的な伝わらない言葉だと思います。人が集まって賑やかになって欲しいという気持ちや企画意図はわかりますが、それを「元気発信」と表現してはせっかくの企画に人が集まらないと思うのです。

また「◯◯から世界へ発信!」もありがちですね。「世界」と言われても…と引いてしまう人が多いのではないでしょうか。

かつてNHKの番組に「明るい農村」というものがありました。
「明るい農村」と聞いて「明るい」農村をイメージする人がどのくらいいるのでしょうか?
実際には、「明るい」はネーミング側の希望であって、現実は逆と感じてしまう人が多いのではないでしょうか。
僕は、すごく暗い農村をイメージします。「明るい」と言ってあげないといけないくらい、手の施しようのない「暗さ」を感じてしまうのです。

こうなるとネガティブキャンペーンをやっているようなもので、プラスどころかマイナスイメージを流布しているに等しいのですが、残念ながらそんな言葉が溢れている現実なんじゃないかと思います。

また厄介なのは、「元気発信」自体を否定しづらいということがありますね。
「今年のキャッチフレーズは『元気発信』に決まったよ!」と言われて否定できる人は少ないと思います。本来の意味はプラスですし、対抗案がなければ否定はしづらいのかと…

となると、決める人の責任は重大になってきますね。

少し話が変わりますが、ネーミングでは、その時代にあった言葉を選ぶことがとても重要だと思います。今なら「エコ」を使ったネーミングはとても多いのではないでしょうか。

今年の「まつり起業祭」のテーマ候補に「ありがとう」を使ったものがありました。この「ありがとう」を使ったテーマは、(起業祭のテーマとして)今までなかったものですし、個人的には今の時代に合っていてとても良いと思いました。

しかしながら、震災後に日本中で広まっている感謝の気持という意味では時代を表しているが、テーマとして採用するとなると、何に対する「ありがとう」か分からないため、唐突な感じがするというのが多数の意見でした。

でも、僕はこの「ありがとう」の意味が少しづつ変わってきているように思うのです。
何かに対して「ありがとう」と感謝するということは、感謝の前提として、何かの施しを受けているということになります。もちろんそういう使われ方が大半だと思いますが。

自分が耳にして印象に残っている…というか、レベルが違うなと感じる感謝の言葉は、トップを極めたスポーツ選手やビジネスマンの口から発せられるものです。まず、間違いなく感謝の言葉が出てきますし、その感謝の対象が逆境の時代を含めたものであったりします。

つまり何かの施しを受けたことに感謝しているのではなく、成功へと導かれた道程、もっと言うなら逆境を含めた現実に対して感謝をしているように思うのです。もちろん、そこには人との出会いやエピソードなど様々なことがあるのでしょうが、突き詰めると現実に感謝をしている。

おそらく、つらいことを含めて現実を受け入れバネとするメンタルあっての成功なんじゃないかと思います。成功者のプラス思考は世に伝播するのも早いですので、「ありがとう」の意味が何気ない現実を対象とするものに、少しづつ変わってくるのではないかと思うのです。

とは言え、多数の意見が現実を表していますので、「ありがとう」をテーマとするのは時期尚早だということだったのでしょうね。

安易なプラス言葉に決まりやすいネーミングやテーマの決定ですが、受け手がどう感じるかということを謙虚に考えることが大切なんだろうと思います。

また、言葉のもつニュアンスは微妙に変わってきていると思います。うまくハマったキャッチーなフレーズを作ってみたいものですね。


今回は、テーマ選定の会議から感じたことを綴ってみました。
一部、会議の内容を題材としていますが、会議についてどうのこうのいうつもりはありません。